『当たり前』を革命した定食屋
愛するあなたへ。
あなたはメニューが置いてない定食屋に行きたいだろうか?
私であればそんな店にはかなり戸惑う。
だがそれは「常識」に囚われているだけなのかもしれない。
未来食堂はその名の通り常識から一歩進んだ定食屋だ。
例えば未来食堂にはこのような特徴がある。
・メニューがない。
・無銭飲食ができる。
こんなスタイルの飲食店がかつてあっただろうか?
だが斬新すぎるその経営方針によって、未来食堂は一躍大繁盛する店となった。
著者経歴
著者の小林せかい氏は押しも押されぬビジネスエリートだった。
飲食業界としては異例の経歴を持ち、前職は日本IBMでクックパッドのエンジニアを6年以上も務める。
しかし、飲食店をやりたいという夢を捨てきれずに退職、1年以上の修業期間を経て未来食堂を開店した。
まったく関係のない業種であるIT業から飲食業へ飛び込んで大成功をおさめ、「日経WOMAN」のウーマン・オブ・ザ・イヤー2017を受賞。
「カンブリア宮殿」「ガイアの夜明け」「WBS」など多くのメディアにも取り上げられる。
着席から数秒で定食が出てくる
未来食堂が革新的なのは、徹底的に合理化を推し進めたことだ。
その結果として未来食堂では客が着席してから数秒で定食を出せる態勢が整った。
圧倒的なスピードである。水と同じようなノリで定食が出てくるのだ。
その秘密は、未来食堂のメニューが日替わり定食ということ。
つまり客は店に入ったらメニューを選ぶ必要はない。何も考えなくてもごはんが出てくる。
しかし、人によっては「ちょっと味気ないな」と感じるかもしれない。
確かに。
あなたの考える通り、未来食堂は休日のランチにはちょっと物足りない店だろう。
しかし、一分を争うビジネスマンのランチにはどうだろう?
彼らはランチにこだわりたいわけではなく、そこそこのものをサッと食べたいのである。
未来食堂はそういったビジネスマンの需要を完璧な形で満たした。
さらに店としても素早く料理を提供できればそれだけ回転率も上がる。
メニューを失くすことは客にも店にもメリットがある画期的なイノベーションだったわけだ。
さらに50分手伝いをすることで1食無料になる「まかない」というシステムを採用している。
従業員は雇わないが、実際にはその『まかない』と一緒に店を回している。
そのお手伝いさんの数は年間450人以上。大抵はまかないさんが誰か1人いる計算だ。
定食は900円だが、こうすれば実際の人件費は食材原価分の200円以下で収まるだろう。これもまた両方にとってお得なシステムなのだ。
そうした新たな取り組みで未来食堂は既存店にない革新的な店舗になった。
こんな異端の飲食店を生んだ小林せかい氏の経営観について、独自の考え方を書いたのが本書だ。
異業種の経験が成功の秘訣
小林せかい氏が『未来食堂』で大成功を収めたのには、一見関係ないように思えるシステムエンジニアの経験のおかげだろう。
小林せかい氏が未来食堂で取り組んだのは「合理化」。
未来食堂のシステムは、徹底的に無駄を省いた合理化のためのアイデアだ。
さらに彼女は飲食店での修行期間はあったものの、飲食業界未経験のまま飛び込んだ。
それがかえってよくて、既存の常識に囚われない柔軟な発想を可能にしたのだろう。
いわゆる「ルーキーがゆえの強み」を活かした経営スタイルだったように思う。
実は世の中には業界に染まれば染まるほど失われていく能力がある。
ルーキーだった彼女はその面で他の飲食店ライバルに差をつけていたことになる。
ルーキーであるがゆえの強みについては、こちらの本で学べる。→ベテランが失くしたビジネススキル<ルーキー・スマート >
根本にあるのは強い信念
小林せかい氏の未来食堂は究極の合理化による成功だ。
だがもっと根底には強い信念があった。
「究極の合理化を突き詰めたから飲食店が成功した」というのは結果論であって、ほとんどの人間は思いついても挑戦すらしなかっただろう。
常識的には飲食店にメニューは豊富にあるものだし、冷蔵庫の食材リストを見せてオーダーメイドで注文できるシステムもピンとこないはずだ。
実績がなく前例のない試みをやりたがる人間は少ない。
ではなぜ彼女は革新的なアイデアに挑戦したのか?
根底に飲食店をやりたいという強い情熱があり、そこから信念が作り上げられ、その信念に基づいたコンセプトで店づくりをしたからだ。
本の中にも「自分がやりたいことを深堀りする」というような内容がある。
結局のところ自分がやりたいことを徹底的に考え抜き、そこから小林せかい氏は成功するための店を作り上げていった。
表面的には「究極の合理化」が成功のカギのように思えても、本質は「自分の信念に基づいた店作り」が成功の理由だろう。
彼女なりの人生観、価値観、考え方を突き詰めた結果として未来食堂はできた。
着席して秒単位で定食が出てくる店舗は他になく、それが競合店に対する圧倒的アドバンテージとなって一つの地位を築いたのだ。
既存店が真似るのは難しいシステムだ。
オンリーワンである未来食堂はしばらく繁栄し続けるだろう。
→例えば<ゼロ・トゥ・ワン>は未来食堂のようなやり方を目指す正しさを書いている。
小林せかい氏の未来食堂が成功した理由は、強い信念が常識を壊して新しい飲食店を創造したからだ。
そういった視点でこの本を読んでみると、大多数の人が読み取るモノとはまた違った内容があなたの前に浮かび上がってくるだろう。
この本から何が得られるのか?
・いかにして飲食店の常識を壊したか。
・なぜ成功したのか、その要因を考察できる。
この本の欠点
・内容は小林せかい氏の成功論であって、あなたの成功論ではない事を覚えておく。
・未来食堂のやり方をまねるだけでは意味がない。
書評まとめ
・いかにして常識を壊したかを知るための良書。
・飲食業に関係がなくても学ぶべきところが多い。
評価
最高