引用:アマゾン
ビジネスに必要な「知識」と「論理力」は大学の参考書を読み直して身につけろ……と言うけれど。
愛するあなたへ。
最初に断っておこうと思います。残念ながら今日はあなたに自信を持ってオススメできる本ではありません。今日紹介するこの「新・独学術」の内容は私には響きませんでした。
別にこの本の内容を実践して悪いことはないんだけど、実際「もっと他にやる事があるんじゃない?」というのが正直な感想だったりします。
<新・独学術>の内容を簡単に言うと、
ビジネスで高いパフォーマンスを発揮するために必要なことは「知識」「論理力」の二つであり、その力を身につけるために「大学の参考書を勉強しなおそう」
というのがこの本の主旨になっています。
なるほど……。確かに大学の参考書を勉強しなおすことに害はないでしょう。でも逆にそれって遠回りのようにも感じるのが実際のところです。私も「知識」と「論理力」がビジネススキルの基礎になるという考えには異存はない、というかその通りだと思いますよ。
でも一口に「知識」と言っても、世の中に知識は勉強しきれないほど溢れているわけで、例えば自分が就いている職業に関する本を読むことも知識を得ることにつながるわけです。
なのにそれをわざわざ自分の職業と直接の関連があるかわからない大学の参考書を勉強しなおすことは無駄に思えます。それなら商品知識に繋がる本を一冊読む方が有意義じゃないでしょうか?
そうすればその商品に関するストーリーについてお客さんに語ることができますよね。
論理力を鍛えるのも、大学の参考書は論理力を鍛えることを目的に作られているわけではなく、あくまで論理力アップは問題を解く過程で生じるオマケの要素ですよね? むしろ大学受験って暗記がメインになってくる部分もあるかと思いますが、暗記ってもはや論理力と関係ないですし。
それなら論理力を鍛えるための本はいくつも出ているんですから、そういう目的で書かれた本を読むのが一番近道じゃないかと思うワケです。
だから「【知識】【論理力】を身につけるために『大学の参考書を勉強し直そう』」というのは……正直なんかズレてるな、と思いながら読んでいました。
そんな<新・独学術>についてを今日は書評書いていきます。
著者の経歴
侍留 啓介。-早稲田大学卒業後、三菱商事にて金融投資業務を担当。その後、シカゴ大学経営大学院にてMBA(経営学修士)を取得。帰国後、マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、金融・消費財・製造業など幅広い業界において経営コンサルティング業務に従事。現在は、外資系投資ファンドであるCLSAキャピタルパートナーズにて投資実行・経営支援に従事。大手学習塾の取締役を務めるなど教育ビジネスにも精通。京都大学博士後期課程にてファイナンス理論(専門はコーポレートガバナンス)を研究している-
引用:本書より
経歴は申し分なく優秀なビジネスマンなんだけど……。
著者の経歴はとても素晴らしく、バリバリの一流ビジネスマンである事がうかがえます。三菱商事という大企業で金融投資業務というこれまたエリートな仕事に就き、その後にMBAを取得してマッキンゼーに入社しています。華々しいまでのエリート。本当に仕事できる一流のビジネスマンである事には間違いないでしょう。
でもだからって本書の主旨である「大学受験の参考書を勉強し直すことほど、「知識」「論理力」を向上させるのに効果的な方法はない」という意見についてはいまいちピンとこないです。
正直、著書が大手学習塾の取締役を務めていることでちょっと色眼鏡が入っているのではないかという印象がしました。そもそもほとんどの人は大学受験をして「大学受験の知識」を持っているわけで、必要最低限の「知識」「論理力」を兼ね備えていることになっちゃうのでは?
それに大学受験の勉強は「8割が暗記」と言われている世界です。とにかく暗記してなんぼ。その「暗記」を前提にした参考書などを読んでも「知識」はともかく、「論理力」は身につくのだろうか?
例えばこういう研究があります。
大学で成績のいい生徒と、落ちこぼれの生徒に「物理の法則について、本当に内容をしっかり理解しているか?」という事を調査するテストをしました。その結果、「物理法則の理解度は、成績に関係しなかった」という研究結果もあるのです。
つまり、成績のいい生徒は物事を理解しているのではなく、「テストの点の取り方」を理解しているだけという調査結果が出ているのです。
→その研究結果はこの本に書かれていた「世界を変えるエリートは何をどう学んできたのか?」
もちろん、<新・独学術>では普通の大学受験のための勉強ではなくビジネスのために勉強するわけで、勉強の仕方は全然違うでしょう。
でも大学受験の内容というのは基本的に「教養」に属するものです。もちろん勉強するにこしたことはないですが「もっと他にやる事あるんじゃないの?」というのが私の正直な感想でした。
大学の勉強が必ずしもビジネスの成功に結び付くわけではない事は、数々の成功者の経歴を見ればわかる事ですし。
本当に必要なのは「よりディープな知識」である。
というわけで、「知識」「論理力」を効率よく学ぶためには「大学受験用テキストを学び直そう!」という主旨にはちょっと私は賛同しかねました。
特に論理力ですが、果たして「大学受験用テキスト」でどこまで「論理力」が手に入るのでしょうか。それなら「論理力を身につけるための本」を数冊読んだ方が手っ取り早いんじゃないのかなと思う次第です。
そもそも論理力って基本的にアウトプットするための機能なので、インプットがメインの大学受験用テキストにそれほど大きな効果があるとは思えません。それならブログなんかを始めた方がずっと効果的なのかなと思います。
そもそもとして大学受験用テキストがビジネスで直接役立つ知識だと言えるのかどうか。この世界に役に立たない知識はないけど、学んでも役立たせ方のいまいちわからない知識は存在するわけです。
例えば地球から太陽までの距離は約1億5千万キロメートルだそうですが、さてこの数字をどやってビジネスに活かそうかとなったら頭を抱えませんか?
大学受験用テキストを学び直すという事は、こういう知識をひたすら勉強する事なわけです。
それがまったくの無駄だとは思いませんけど、それだったら漫画「ワンピース」を読んだり、「パズドラ」をしていてもそんなに変わらないんじゃないのかなと思います。
ワンピースは総発行部数3億冊を超えるし、パズドラは日本人の3人に1人がプレイしているそうです。(国内累計4500万ダウンロード)
ワンピース、パズドラのヒットの要因を分析した関連本は多数出ているし、ワンピースに人生を変えられた人も、パズドラでコミュニケーションを円滑にしている組織もあります。こういったものに触れるのも一種の教養であり、実際に効果を実感できるでしょう。
「大学受験用テキスト」という、大学生なら誰もが勉強した事がある知識を学び直したところで、その知識のほとんどは他人と差別化できないし直接役にも立ちにくいのが実情です。
なので私の結論としては、
・特定の知識を学びたいなら、その知識に関する本を読めばいい。
・「論理力」を身につけたいなら、個人的な論文を書いたりブログでも始めればいい。
という事になります。
あなたの仕事がマーケティングなのに複雑な数学の公式が役に立つ事はないはずです。
どうせ勉強するならわざわざ遠回りしない。
私たちの時間は無限にあるわけではありません。だから、勉強するにしても役に立つものから優先する方がいいに決まっています。もちろん、大学の勉強や教養が役に立たないと言っているわけではないですよ?
でもビジネスの世界では常識的な情報の重要度は低いのです。。
「この世の水は0℃以下で凍って100℃以上で蒸気に変わるんだ!」という事実を話そうとしても常識過ぎて誰の興味も引かないわけです。でも、「この世には100℃でも溶けない『熱い氷』が存在する」といったら「お?」と少し興味がわきませんか?
実は100℃の氷というのは本当に存在します。2万気圧以上の高圧状態であれば、100℃になっても氷は溶けないのです。もちろん、触るとヤケドしますよ。
地球にはこんな氷は存在しないんですが、地球から33光年離れたGJ436という星の周囲に回っている惑星が「熱い氷」で出来ているそうです。
こういう風に他の人があまり知らない知識は、誰かの心に引っかかります。こういうものはビジネスでも使える可能性はあるわけです。だから教養というのはまったく無駄にはなりません。しかし、そのためには他人が知らない知識の方が圧倒的に使えるシーンは多いわけです。
大学受験用テキストから学べる知識で、人の興味を引くことができる知識はあるでしょうか?
ビジネスで使えるだけの論理力が手に入るでしょうか?(論理力はインプットよりもアウトプットする方が身に付きそう)
私はその辺がピンとこなかったので、いまいちこの本を評価できませんでした。
この本から何が得られるのか?
「知識」「論理力」が仕事にいかに役立つか説明されている。
大学受験生レベルの知識と論理力が効率的に身につく。
この本の欠点
身につけたい能力のために遠回りしている感が否めない
書評まとめ
この本の内容を実践するより他にやる事はありそうだ
評価
読まなくても良かったかな……